反貧困2009/08/08 19:12

下記の本を読んでみました.

湯浅 誠(2008)反貧困ー「すべり台社会」からの脱出ー.岩波新書.224p.

http://www.iwanami.co.jp/hensyu/sin/sin_kkn/kkn0804/sin_k407.html

湯浅氏は,最近度々報道に取り上げられている方で,昨年末の派遣村などで皆さんもご存じの方も多いと思います.

「ワーキングプア」:憲法25条で保証されている最低生活比以下の収入しか得られない人たちのこと.

日本社会にどうして貧困が広がってしまったのか.貧困が広がる中でどのような問題が起こっているのか.貧困とはどういうものか.日本政府は貧困問題に対してどのような立場を取っているのか.人々が貧困問題にどのように立ち向かっているのか.

一度転んだらどん底まですべり落ちていってしまう「すべり台社会」の中で,「このままいったら日本はどうなってしまうのか」という不安が社会全体に充満している.

現代の日本社会に人々が貧困化する構造的な要因があるのではないか.

今や,全労働者の3分の1(1736万人)が非正規であり,若年層(15-24歳)では45.9%,女性に至っては,5割を超えている(53.4%).

年収200万円以下の人の給与所得者が2006年,1022万人に達した.

1990年代の長期不況の中で,企業による労働者の非正規化が徐々に進行していった.一部の主力正規社員以外は,派遣や請負による非正規でまかない,それによって人件費を軽減して企業業績を好転させようとした.

非正規労働が蔓延する中で,正規労働者の地位の切り崩しも進んでいる.雇用保険に加入していない労働者が増えている.

日本社会は,今どんどん「すべり台社会」化しているのではないか.三層であるべきセーフティネット(雇用のネット,社会保険のネット,公的扶助のネット)が三段構えになっていない.刑務所が第四のセーフティネットになってしまっている.

教育課程からの排除.企業福祉からの排除.家庭福祉からの排除.公的福祉からの排除.自分自身からの排除.

貧困とは,選択肢が奪われていき,自由な選択ができなくなる状態.貧困とは,もろもろの"溜め"が総合的に失われ,奪われている状態.

貧困は積極的に隠されている.姿が見えない,実態が見えない,そして問題が見えない.そのことが自己責任論を許し,それゆえにより一層社会から貧困を見えなくしている.

少なからぬ人たちの"溜め"を奪い続ける社会は,自身の"溜め"をも失った社会である.

貧困の最大の敵は「無関心」.貧困とは常に「再発見」されるべきものである.

人間が人間らしく再生産される社会を目指すことが重要.


研究者の非正規化問題(ポスドク問題)を調べていて,この本を読みました.日本の社会が置かれた貧困化の現状を知るためにお勧めの本です.

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