悩む力2009/02/22 20:59

姜尚中の本を読んでみました.

姜尚中(2008)悩む力.集英社新書.190p.

苦悩する人間は,役に立つ人間よりも高いところにいる.
「悩む力」にこそ,生きる意味への意志が宿っている.
多くの人々がかつてないほどの孤立感にさいなまれている.
明治の時代.
夏目漱石とマックス・ウェーバー.時代を引き受けてやろうという覚悟.
「個人」として生きるとはどういうことか.「自我」.
生きることの意味,人生の意味,死ぬことの意味,愛することの意味.

「私」とはいったい何者であるのか.
自我が肥大化していくほど,自分と他者との折り合いがつかなくなる.
「自分の城」を築こうとする者は必ず破滅する.人とのつながりの中でしか,「私」というものはありえない.自我というものは他者との「相互承認」の産物.まじめに悩み,まじめに他者と向かい合う.

虚無的になりがち.末流意識.時代に対してなにがしかの不満を持ち,不満を持ちながら,どこかあきらめている.「お金」それ自体が目的になってしまう.お金が持つ「危うさ」.

情報が洪水のようにあふれている.「物知り」「情報通」であることと,「知性」とは別物.ものごとを情熱的に探求していかない.すべての望みを捨てよ(ダンテ).現代の文明は完全な人間を日に日に片輪者にすつつ進む(漱石).広義の人間の知性は,「真」「善」「美」の三つとかかわっている.われわれの知性は何のためにあって,われわれはどんな社会をめざしているのかということを,考え直す必要がある.

青春期だからこそ得られるものが,はやりある.青春とは,無垢なまでにものごとの意味を問うことだ.青春というのは年齢ではないのではないか.

宗教というのは「個人が属している共同体が信じるもの」だった.近代以前は,人が何を信じ,ものごとの意味をどう獲得するかという問題は「信仰」によって覆い隠されていた.宗教などを抜きにして,自分がやっていること,やろうとしていることの意味を自分で考えるーこれは非常にきついこと.何かを選択しようとするたびに,自我と向き合わねばならず,その都度,自分の無知や愚かさ,醜さ,ずるさ,弱さといったものを見せつけられる.「何をするのも,何を信じるのも自由」というのはつらいもの.人々の心も相当危ういところまできている.情報の洪水と巨大化したメディアにさらされ,何を信じたらいいのかわからない,何も信じるものがない,と無機的な気分になっている.「自分を信じる」 自分の知性だけを信じて,自分自身と徹底抗戦をしながら生きていくしかない.自分でこれだと確信できるものが得られるまで悩み続ける.

「人はなぜ働くのか」というのは,簡単なようでいて,意外に深遠な問い.「働いてこそ一人前である」「社会の中で,自分の存在を認められる」ということ.人が一番つらいのは,「自分は見捨てられている」「誰からも顧みられていない」という思い.働くことによって初めて「そこにいていい」という承認が与えられる.「他者からのアテンション」 人間というのは,「自分が自分として生きるために働く」「自分が社会の中で生きていていい」という実感を持つために,やはり働くしかない.

頭の中で「これこそが愛だ」と思い描いているときは,何か無上に美しい,神聖なもののように思えるもの.「誰をどのように愛するか」も「何を愛と考えるか」も自由になった.自由というのはたいへんな困難を伴うもの.「愛とは,結局エゴイズムである」.互いの間に何かの問いかけがあり,互いの間にそれに応える意欲があるということが,たぶん一番重要.

人の命が軽くなっている.人は相当の苦悩にも耐える力を持っているが,意味の喪失には耐えられない(フランクル).自分が生きている意味がわからないという人が増えている.多くの人が心の「臨戦態勢」を強いられている.世の中から見捨てられた気分で孤立している人も少なくない.個人の内面の充足,すなわち自我,心の問題に帰結する.意味を確信している人はうつにならない.確信できるまで大いに悩んだらいい.まじめに悩み抜く.

老人とは,子供と同じように,「社会の規範からはみ出した者」.「老人力」はとは,「攪乱する力」である.「老人力」とは「死を引き受ける力」.覚悟してまるごと引き受けてしまえばよい.心構えのようなものを持った上での「恐くない」であるべき.そのためには,自分の人生について悩み抜くことが必要.「一身にして二生を経る」(福沢諭吉).高齢者が文化を作らなければいけない.まじめに考え抜いた果てに,横着になる.いまの時代はいろいろな意味で突き抜ける必要がある.新しい破壊力がないと,今の日本は変わらないし,未来も明るくない.

「人間的な」悩みを,「人間的に」悩むことが,生きていることの証し.

夏目漱石の作品をまたじっくり読み直してみたくなりました.「夢十夜」「心」「行人」「それから」「明暗」など多くの作品が引用されています.これからの時代をどう生きるか,それをまじめに悩んで考えることこそが大切.

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