なぜ日本人は学ばなくなったのか2008/06/28 19:20

今日,齋藤孝さんの本を読みました.

齋藤 孝(2008)「なぜ日本人は学ばなくなったのか」講談社現代新書.221p.

とても考えさせられた本でした.

日本では確実に「バカ化」が進行している.ノーリスペクト社会.知性・教養に対する尊敬やあこがれのなさ.フラット化が加速する社会.濃い交わりが苦手.一体感をもった集団になるまで時間がかかる.知らない人との世間話は,苦手.傷つきたくない,ささやかな自己意識を踏みにじられたくない.他者の目を過剰に意識.他者の承認によって自分自身を支えている.承認欲求の強さ.学問に対する熱意のなさ.自分自身で知識を積極的に得ようとしていない.受動的な学び方をしている.知的な本を読む習慣を持っていない.基本的な向上心は読書量に表れる.3年以内にやめていく若者が増えている.リストラの日常化.社会という組織との信頼関係が失われた.「心の安定」を失いやすい時代.心の不良債権.現在は,社会が若者を見捨て,若者も社会を見捨てるという不幸な構造になっている.「やさしさ」の価値観.もっと勉強したい,もっと社会に貢献したいという熱い気持ちを持つことが,なぜ難しくなってしまったのか.「ゆとり教育」の弊害.ゆとり教育の結果,勉強しない子供が増えた.間違った平等意識.

アメリカ化の進行.アメリカの若者文化は,カウンターカルチャー.音楽とともに自分に引きこもる人が増えた.伝統的な知識や経験知,常識などを次の世代に伝達する回路を失った.大学生のアンケートで,本の所有数が100冊以下の人が60%に達している.自己形成にかかわる一般教養を読書によって培っていくという生活習慣はほとんど根づいていない.以前は向上心を持っている人こそすばらしいという価値観が共有されていた.古典的教養に対するリスペクトがない.アメリカ的なフロンティアスピリット,チャレンジ精神などは日本の若者には根づいていない.自分たちがどのような自己形成をすべきかというモデルをすでに喪失している.日本人の精神の荒廃が急速に進んだ.社会の富の分配が偏ってきている.年収300万円以下の人が38.8パーセント.閉鎖的でこもり気味の意識が広く浸透してきている.

書生へのあこがれ.驕らず高ぶらず,常に学ぶ精神を持ち続けたい.自分は未熟である.だから修行を積む.師事.先生を求めるという行為.書生の師匠に対する「リスペクト」の心.素読世代と教養世代.自分が今,修行期にいるという意識自体が日常的に反復され,「技化」していた時代.倫理観磨き正義感に燃え,真善美を追究するといった時期はその後の人生の貴重な糧となる.ゲーテ,ニーチェ,カント,ドストエフスキーの作品.学問のすすめ.自助論.勤勉こそ成功の条件というマインド.よき先生と仲間に恵まれて過ごすことは,まさに人生の醍醐味.

もっと人生を深く見つめたい,自分のアイデンティティの置き場所を探りたいという欲求.西田幾多郎の「善の研究」,倉田百三の「青春をいかに生きるか」,阿部次郎の「三太郎の日記」.「哲学」が根本的な基礎教養として共有されていた.自分をもっと掘り下げたいという思い.哲学的なものの考え方をする.人間とはどういう存在か,人類はこれからどうなるのかなど,時空を超えた本質的な問題に向かっていく.自分に何ができるのかを深く追求してみる.新渡戸稲造の「自分をもっと深く掘れ」.若いうちに掘り下げておけば,社会に出た後でいい仕事ができる.向上心.ヨーロッパの歴史・文化に根づいたレベルの高い文化を吸収しているのだという誇り.日本人独特の「恥の文化」が読書欲を加速させていった.日本国中において,教養に対しての支援体制があった.自分の思考の基本スタイルをつくる作業.自分自身がぶれない中心.世界観を構築するため,まず人文学的・古典的教養を身につけるもの.精神的なタフさ,思考することを厭わないねばり強さ,勉強することを楽しむ向上心.世界全体が幸福にならないうちは,自分一人の幸福はあり得ない(宮沢賢治).「何々すべきである」と強いる時代から,「自分がやりたいことをやる」と割り切って突っ走れる時代へ変化.何かをリスペクトして追求するより,自分にとって快適なものだけを集める志向へ.自らの無教養に対する羞恥心のなさと開き直りの態度.労働環境の悪化.修養主義.日本には,人間にとって大切なことは何か,といった倫理観を養う教科が存在しない.読書という行為を中心として自己形成していく.自分の生き方だけではなく,他者に対する態度も養っていく.高い山の切り立った崖を登るような努力やエネルギーを必要とすることは,若いうちに経験しておくべき.難解であることを承知で立ち向かい,多くのことを根気よく調べ,深く考えながら,議論しながら少しずつ理解していくという経験が,その後の糧になる.プレッシャーがかかってきたとき,トラブルに直面したとき,パニックになりそうなときに,対処する力.自分の思考方法や原理・原則に戻り,腹を固めて決断し,毅然たる態度で現実を切り開いていく.その行動力や強さの基盤を得る.不平等の現実に対する失望感や絶望感を胸に「あきらめる」という選択が当たり前になりつつある.お金の使い方には教養が必要.

「座右の書」を持つ.他人のため,社会のため,世の中のために何か役立てないかという思いで生きる.一生を培っていけるような精神の基礎工事が必要.社会が病んでいる.入社三年以内に会社を辞める若者は,中卒者の約70%,高卒者の約50%,大卒者の約35%に達している.会社と社員,あるいは社員同士の信頼感が失われてきている.モラトリアムが長くなりすぎると,組織や集団に所属すること自体がわずらわしくなり,結果的に不安感が出てくる.読書を通じて精神の強さを養っていく.読書とは,自分の中で行う,偉大なる他者との静かな"対話"である.これにより,判断力や粘り強さを身につけることができる.「情報」ではなく「人格」として書物を読む習慣を身につける.自分自身の実存をかけた選択をして,社会に参加して未来の自分を創っていく.サルトルの「被投的投企」.渋沢栄一は「論語」をベースに会社経営を行っていた.今の日本は思想的なバックボーンを失っている.漢文系の素養によって自己形成してきた.鈴木大拙の「善と文化」.人間関係の経験が極端に少なくなっている.学校の教師に対して過度に甘えてくる.「学びへのあこがれ」の対象を提示し,リスペクトの導火線に火をつける.

「学ぶ心の伝統」こそが,日本人の最大の財産.あこがれが連鎖する社会は,幸福な社会.体を使い,身にしみこませるようにして吸収した教養が,生涯にわたって飛ぶ矢に推進力を与える.読書会.学ぶ意欲の格差.国益的視点を持たないことが,今の日本の弱点.学ぶベクトル.ものごとには,深さと高さがある.できていないのに,「わかっている」と言い続ける人には,進歩がない.「学ぶ構え」のある人の身体からは,学ぶ活気が発散されている.向上心の矢.「技」を磨き,その技で他の人を幸福にすることを生きがいとする.「自分とは異質の他者性の高いもの」こそ,自分を高めてくれるもの.つらい時,くじけそうな時は,「雨ニモマケズ」を全文つぶやき,宮沢賢治のマインドを心の灯としてともす.

現代社会の問題を深く考察しており,とてもためになりました.もっと哲学・教養を自分の身につけようと深く反省した次第です.古典といわれる名著を普段から少しずつでも読んでいこうと思いました.